東京高等裁判所 昭和30年(ラ)370号 決定 1956年10月10日
抗告人 田納せき
主文
本件抗告を却下する。
理由
抗告代理人は、「原決定を取り消す。仮りに原決定を維持するとしても、『すでに完了した執行行為の結果はこれを維持し執行吏は点検現実占有をしてもよい』との一項を加えて原決定を変更する。」との趣旨の裁判を求め、その理由として別紙抗告理由のとおり主張した。
よつて案ずるに、民事訴訟法第五百四十四条により強制執行の方法に関する異議の申立があり、執行裁判所が同法第五百二十二条第二項によつて、その強制執行の停止決定をなした場合、その停止決定に対し不服の申立をなし得るか否かは、右停止決定については同法第五百条第三項の如き規定がないので、明文上必ずしも明白ではなく、従つて、同法第五百五十八条の規定に従い即時抗告をなし得ると解し、不当な停止決定に対し債権者にこれを是正する機会を与えることができると解する余地のないことはない。しかしながら、右停止決定は執行裁判所が強制執行の方法に関する異議につき裁判するまでの一時的応急的の仮りの処分であつて、この点においては、同法第五百条第五百十二条に基ずいて発する強制執行停止決定と性質なり機能において全く異らないものと解せられるので、特に前記強制執行停止決定を、同法第五百条第五百十二条に基ずいて発する停止決定と区別して、不服申立を許すとなす根拠に乏しい限り、前記強制執行停止決定についても同法第五百条第三項に準じ不服申立を許さないものと解すべきである。しかして、前記強制執行停止決定は、異議の裁判に附随する仮りの処分であつて、異議の裁判と別に更にその当否を争はせることは徒らにその確定、執行を遷延し、民事訴訟法がかような仮りの処分を認めた趣旨を全く没却するに至るであろうし、かような仮りの処分につき不服申立を許さないものとすることは止むを得ないところであつて、これを否定し得ない以上専らかような趣旨で規定されたと解される同法第五百条第三項を排除する根拠に乏しいものと考えるほかはない。然らば、前記強制執行停止決定に対する本件抗告は不適法にして却下のほかなく、また、民事訴訟法第四百十一条に基ずく抗告と認める余地もないので、本件抗告を却下し主文のとおり決定する。
(裁判官 岡咲恕一 亀山修平 脇屋寿夫)
抗告理由
一、債権者(抗告人)田納せき債務者田中徳三同高瀬良孝間の東京地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第一七二九号仮処分申請事件において、本件家屋に対する債務者田中徳三の占有を解いて債権者の委任した執行吏にその保管を命ずる、執行吏は現状を変更しないことを条件に右債務者に本件家屋の使用を許さねばならない、債務者高瀬良孝は本件家屋の譲渡その他一切の処分をしてはならないなどの仮処分決定がなされ、右決定はいずれも執行されたのである。
二、債務者高瀬良孝は、その後不法に本件家屋に侵入したので、執行吏は、仮処分の執行の結果を維持保全するため、本件家屋を点検し、すでに債務者田中徳三は他に転居していたので、現実に占有保管するため本件家屋の二部屋に封印し、債務者高瀬良孝に対し一週間の期間を附して立退を求めた。然るに、右債務者は執行吏の右措置を不当として執行方法に関する異議を申立て、併せて右執行の停止を申立て、原裁判所はこれを容れて強制執行の停止決定をなしたものである。
三、しかしながら、仮処分決定があつてその執行が終了した場合には、もはやこれらを変更出来ないものであり、執行吏は執行の結果を維持保全するため侵害者を実力を以て排除する義務があるので、これを左右する停止決定は違法である。仮りに、原決定を維持するとしても、すでに執行の完了した部分については、前記停止決定をもつて左右することは出来ないので「既に執行完了の部分は現状のまゝとして執行吏はこれを維持保管すべし従つて現実占有はこれを続行してもよい」との趣旨を明らかにして停止決定をなすべきである。